株式市場が下落すると、多くの投資家は「暴落ではないか」と不安になる。しかし、長期的なデータを見れば、現在起きている程度の下落は決して珍しいものではない。むしろ株式市場ではごく普通に起きる現象である。
例えば米国株式市場の代表的指数であるS&P500を見ると、年間で10%程度の下落はほぼ毎年のように起きていると言われている。さらに20%前後の下落、いわゆる弱気相場(ベアマーケット)も、数年に一度の頻度で発生している。統計的には、1928年以降のデータでは10%以上の下落は平均すると1〜2年に一度、20%以上の下落はおおよそ4〜6年に一度程度のペースで起きている。
実際の歴史を振り返ると、2000年のITバブル崩壊ではS&P500は約50%下落し、2008年のリーマンショックでも同様に約50%近い下落を経験した。さらに記憶に新しい2020年のコロナショックでは、わずか1か月ほどで30%以上の急落が起きている。しかし、その後市場は回復し、長期的には過去最高値を更新し続けてきた。
つまり、株式投資において「下がること」自体は異常ではない。むしろ、一定の下落を繰り返しながら長期的に成長していくのが株式市場の本来の姿である。短期的な下落だけを見て恐怖を感じるのは、人間の心理として自然ではあるが、統計的な視点が欠けているとも言える。
投資成果を大きく左右するのは、実は銘柄選びよりもメンタルである。市場が下がったときに不安に耐えられるかどうかで、最終的なリターンは大きく変わる。多くの投資家は、上昇局面では強気になり、下落局面では恐怖に支配される。その結果、「高く買って安く売る」という行動を繰り返してしまう。
これは行動経済学でもよく知られている現象である。人間は利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛を強く感じる傾向がある。このため、含み損が拡大すると合理的な判断が難しくなり、長期的な投資計画よりも「今の不安から逃れること」を優先してしまうのである。
株式市場の下落局面では、よく「落ちてくるナイフを掴むな(Don’t catch a falling knife)」という格言が語られる。意味は単純で、下落している途中で慌てて買うと、さらに下がって大きな損失になる可能性があるという警告である。短期売買をする投資家にとっては、確かに重要な教訓である。
しかし長期投資という視点で見ると、この言葉は必ずしもそのまま当てはまるとは限らない。なぜなら、長期投資では「底を完璧に当てること」はそもそも不可能だからである。実際のところ、多くの長期投資家は下落の途中で買うことになる。結果的にそれは「落ちるナイフを掴んだ」形になるが、インデックス投資の場合、単に長期投資の途中での買いであり、言い換えれば「安い時に買えた」という事なのだ。
今回のような下落で慌てて損切りしてしまうのであれば、それは投資判断の問題というより、そもそも取っているリスクが大きすぎる可能性が高い。自分の許容範囲を超える資金を市場に投じてしまうと、価格変動に耐えられなくなるのである。
別の記事でも述べたが、投資金額は「どれだけ増えるか」ではなく、「どこまで下がっても耐えられるか」という視点で決めるべきである。例えば投資に投入した金額に対して、30%の下落が起きても冷静でいられるのか、あるいは50%の下落でも保有を続けられるのか。こうした想定をあらかじめしておくことで、実際に市場が荒れたときにも感情に流されにくくなる。
ここで一つ興味深いデータがある。米国の株式市場では、長期的に見ると平均リターンは年率7〜10%程度と言われているが、そのリターンの多くは「ごく少数の強い上昇日」によって生み出されている。もし投資家が恐怖によって市場から退出し、その数日を逃してしまうと、長期リターンは大きく低下してしまうことが知られている。つまり、暴落時に市場から離れてしまうことは、単に下げを回避するだけでなく、その後の大きな上昇を逃してしまうリスクも伴うのである。
また、暴落時には悲観的なニュースが溢れるが、投資家にとっては必ずしも悪いことばかりではない。株価が大きく下がる局面では、企業価値に対して割安な価格で株式を購入できる可能性が高まるからである。特に積立投資を行っている場合、価格が下がるほど同じ金額で多くの株式を購入できるため、将来的なリターンが改善する可能性もある。
歴史的に見ても、大きな下落の後には長期的な上昇局面が訪れてきた。ITバブル崩壊後も、リーマンショック後も、コロナショック後も、市場は時間をかけて回復し、最終的にはそれまでの高値を更新している。もちろん将来も必ず同じ結果になると断言することはできないが、企業活動と経済成長が続く限り、株式市場が長期的に成長してきたという事実は無視できない。
重要なのは、市場の短期的な動きに振り回されないことである。株式市場は本質的に変動するものであり、下落はその一部に過ぎない。投資家が本当に管理すべきなのは市場ではなく、自分自身のリスクと感情である。
結局のところ、長期投資の成否を分けるのは「どの銘柄を選んだか」よりも「どれだけ市場に居続けられるか」である。暴落のたびに市場から退出してしまえば、回復の恩恵を受けることはできない。逆に言えば、市場に居続けることができれば、長期的な成長の果実を受け取る可能性は大きくなる。
だからこそ、投資を始める前に自分のリスク許容度を冷静に見極めておく必要がある。大きく下がっても安眠できる金額で投資をすること。そして、市場が荒れているときこそ短期的な感情ではなく、長期的な視点に立ち返ること。それこそが、長期投資を成功させるための最も現実的で確実な方法なのである。
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